『文選』とは

 中国古典文化の常識的な知識を確認したい場合、『辞海』(1979年版、上海辞書出版社、1980。1999年版、上海辞書出版社、2000)はその大きな助けとなります。『辞海』の説明を借りて『文選』を紹介したいのですが、これについては、すでに戸川芳郎氏が訳出紹介されています(高橋忠彦訳『文選』学習研究社、「中国の古典」、1985、戸川芳郎「解説」)。ここでは、戸川氏の訳をお借りします。

 総集の書名。南朝、梁の蕭統(昭明太子)が編纂し、よって「昭明文選」とも称される。
 先秦〜梁代の詩文辞賦を撰録する。うち経子からは選ばず、史書では、「綜緝辞采」で「錯比文華」の論賛にかぎって撰入した。そこには、すでに文学とそれ以外の類型との、作品区分についての大体の配慮がはたらいていた。全体を三十八類に分かち、およそ七百余首の作品。
 内容は、時代を代表する作家の著作を多くおさめ、現存する最も早期の詞華集であり、この詩文選集のおかげで散佚をまぬかれた文章が少なからず存する。梁代以前の文学を研究するものの重要資料となっている。文芸様式としては、とくに駢儷と華藻に重きをおいている。
 原本は三十巻。唐の顕慶年間、李善が注釈を加えたとき、各巻を分けて六十巻とした。その注解は、文献資料を多量に捜集し、相当の価値を有する。
 開元年間に、呂延済・劉良・張銑・呂向・李周翰の五人共同の合注を作成、「五臣注」とよばれ、字句の訓釈に重点がかたむき、李善注の詳しいのに及ばない。宋代に、李注と五臣注の両本をあわせて「六臣注文選」と呼ぶようになった。いまその影印宋刊本がある。
 李善注には、清の嘉慶間の胡克家が重刻した宋刊本がでて、それには「文選考異」十巻を附載する。ほかに翻刻本や影印本もみられる。
 このほか、敦煌巻子本「文選」「文選音」「文選集注」等の残巻が、それぞれ「鳴沙石室古籍叢残」「敦煌秘籍留真新編」と「京都帝国大学文学部影印唐抄本」第三集〜第九集に、影印して収まる。

 戸川氏は、この『辞海』の説明をさらに詳しく補われていますが、今は省きます。ご関心の向きは、本書をご覧下さい。